主にWebサイト、Webアプリケーション、印刷物などで使用する欧文(英語)のコーポレートフォント選定において、最低限満たしておきたい基本条件を書き出してみます。コーポレートフォントとして広範囲かつ長期間の使用を想定した条件ですが、単一のプロジェクトにも応用できるかと思います。
フォントは数多く存在し、どのような観点や基準で選んだら良いかわかりにくい面があります。見た目の感覚で決めることもあることもあると思いますし、直感で決めることも大事だと思います。
その一方でシステム的な機能要件として抑えておきたい項目もあります。必要な条件を満たしたフォントを選ぶことで、デザインの統一性や拡張性、品質、開発速度、運用効率などを高められる利点があります。
文字の太さの種類のことをウェイトと呼びます。通常の文字と強調する文字を区別したりデザインに強弱を持たせたりするなど、ウェイトが揃っていることは必須要件です。最低限3種類は必要だと考えます。できれば5〜7種類以上は欲しいです。
印刷物の用途も考慮して7種類以上のウェイトがあると、デザインの幅が広がります。紙面やWebページなど、その時に使用するウェイトが仮に2種類であっても選択肢は多いほうが微調整しやすい利点があります。例えばTT Commonsのフォントでは9種類の中から2種類のウェイトを選べます。
より明確な強弱(コントラスト)をつけたほうがデザインが明快になりやすいです。WebサイトやWebアプリケーションでは、表示速度維持のため実際に使用するウェイトは2種類に限定する場合もあります。
イタリック体は書体を単に斜めにしたものではなく、使用用途に慣習的なルールがあります。用途によって使い分けるため、イタリック体が備わっていることは必須だと考えています。
イタリック体の主な用途に強調、引用箇所の明示などがあります。その他にも文献名、劇や詩の題名、美術品の作品名、外国語の表記、数学記号や音楽記号、生物の学名などの表記にも用いられるようです。
※直立した書体を単純に傾斜させたものはオブリーク(Oblique)と呼んで、イタリック体とは別のものとして区別される場合もあります。単に書体のアウトラインを傾けただけではデザインが崩れるため、イタリック専用に設計されるものもあります。イタリック体の場合は、フォントによって筆記体の特徴を持っています。
合字(リガチャ)とは2つ以上の文字を1つにしているものです。代表的なものでは「fi(fi)」、「fl(fl)」、「ffi(ffi)」などがあります。特に英語圏に向けた媒体では必要となる可能性が高いので、少なくとも基本の合字はある程度揃っているフォントを選ぶのが良いと考えます。
一方でWebサイトやアプリケーションの場合は、データをより扱いやすくする観点から意図的に合字を使わないこともあります。フォントやブラウザ(CSSの指定)によっては、合字ではないテキストデータを維持しつつ自動的に合字として表示してくれるものもあります。
スモールキャップスとは、小文字のエックスハイト(x-height)とほぼ同様の高さでつくられた大文字です。通常の大文字と太さのバランスが合うように形状自体が調整されており、通常の大文字が単に縮小されたものではありません。部分的な強調や特別な装飾として用いることがあります。
コーポレートフォントとして書体を選ぶのであれば、見出しや本文など様々な場面の使用を前提とすることをおすすめします。基本となる本文の読みやすさを優先して選ぶと、広い範囲に活用できて長持ちする耐久性の高いデザインに近付きます。
コーポレートフォントに限りませんが、ブランドイメージに沿ったフォントを選ぶことでデザインに一体感が生まれ、企業やサービス、ブランドとして伝えたいメッセージの力が強まると考えています。
例えば堅実なイメージのブランドであれば、特徴の少ないスタンダードなフォントが合わせやすいです。一方で柔らかいイメージのブランドであれば、少し丸みのあるフォントを選ぶことでより届けたい世界観に近づくのではないでしょうか。さらには使用する和文フォントとの相性を確認できると、より品質が高まります。
各サービスやプロダクトにフォントを反映するにあたり、エンジニアリングの観点で実装上の懸念について検討しておいたほうが良いでしょう。広く汎用的にサービス展開するにあたり課題の洗い出しが必要になります。例えば以下の項目です。
組織が大きくなったりサービスが拡大していく中で、フォントのライセンス管理は煩雑になっていきます。今後のサービス拡張に向けた、運用やライセンス管理のしやすいフォントメーカーやライセンス形態選びも重要です。例えば次のような観点があります。
Webフォントの場合は表示速度(レンダリングやローディング速度)も選択の観点です。欧文フォントは日本語の和文フォントに比べて文字数が少ないので、データは比較的に軽量です。それでもまずは2つか3つ程度の必要なウェイト数に絞って導入し、表示速度と見た目の印象のバランスを取っていくのが良いでしょう。
さらに品質を上げるなら、和文フォントと欧文フォントの組み合わせ(和欧混植)における従属欧文の扱いも検討します。Illustratorで和文と欧文の組み合わせを調整して合成フォント化する方法もあります。複数人での運用性や汎用性を高めたいという理由で従属欧文を使うのであれば、初期状態で和文と従属欧文のバランスが良いフォントを選ぶのが良いかもしれません。
Webサイトやアプリケーションなど、主にデジタルデバイス向けのサービスを展開している場合、コーポレートフォント選定の優先順位は低いかもしれません。コーポレートフォントを選定し始めるのは、以下のタイミングくらいがちょうど良いように思います。
基本条件には含めていませんが、より応用的に使いたい場合は次の項目について検討してみるのも良いかもしれません。
一方でバリエーションが増えると表現の幅は広がりますが、逆に考えれば統一感やシンプルさが失われることにもつながります。特にコンデンスド(Condensed)やエクステンデッド(Extended)は使用しないルールとして定めることで、より統一されたデザインになる利点もあります。
フォントメーカー(Type Foundry)や販売代理店(Font Vendor)の一例です。このようなWebサイトでイメージに合うフォントを探すのも良いかもしれません。様々なデザインのフォントがあり、眺めているだけでも楽しくワクワクします。
注意点として、これらのフォントメーカー、販売代理店で取り扱っているフォントがあなたの目的に沿った運用しやすいライセンス条件を満たしているとは限りません。同じフォントであっても、各フォントメーカーや販売代理店によって提供している価格やライセンス形態は異なります。そのためライセンス形態が目的にかなっているかの確認が必要です。
これまでに制作した実験的タイポグラフィ作品のまとめです。使用したフォントの簡単な感想や印象についてもまとめています。
欧文コーポレートフォント選びで満たしておきたい基本条件をまとめてみました。ウェイトや合字、イタリック、スモールキャップスなどの基本条件は、フォントメーカーや販売代理店が取り扱っている実績のあるフォントであれば問題無く満たしていることが多いはずです。
それでもWebサイトやWebアプリケーションなどのデジタル媒体へのフォント使用では考慮すべき点が増えるため、「本当にこれで良いのかな?」と不安な気持ちになるかもしれません。「このデザインが良い!」と感じたフォントの機能要件を確認することで、より自信につながる判断材料として活用いただけたら幸いです。